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■笠井一子著『北海道の食彩<マッカリーナ>物語』

四六版上製 カラー口絵四頁 本文192頁 定価1785円

 近年、北海道では、北海道拓殖銀行が倒産し、子会社が不祥事を起こした雪印乳業は深刻なダメージを受けるなど、経済的な地盤沈下はたいへん厳しいものがあった。そのうえ追い打ちをかけるように大型リゾート計画も、つぎつぎに破綻している。
洞爺湖の超高層ホテル、芦別町のカナディアンランド「赤毛のアンの村」などのリゾート構想。なかでも南富良野町・占冠(しむかっぷ)村にあった「トマムの楽園」(スキー、ゴルフ、全天候型プール、高級ホテルによる巨大リゾート地)の失敗……。
 そこで、こうした大型開発の対極にあるともいえる、「真狩村」(まっかりむら)という小さな村の「村おこし」に焦点を当てたのが、この本である。真狩村で始めたオーベルジュ<マッカリーナ>は第三セクターによる稀な成功例だからである。

◎<マッカリーナ>の舞台、真狩村というところ
 北海道虻田(あぶた)郡真狩村は、札幌から東南にバスで2時間半、ニセコとルスツと いう二つのスキー場に挟まれた、羊蹄山山麓に位置する人口約2500の過疎の村である。村は肥沃な大地がつづく典型的な農村地帯で、全国一といわれるユリネをはじめ、ジャガイモ、アスパラガス、ブロッコリーなど、数々の豊かな農産物に恵まれている。
 また、蝦夷富士とも呼ばれる1898メートルの羊蹄山は、晴れた日には、広大な原野に悠然と聳え立ち、その秀麗な姿は、この地方で唯一のランドマークになっている。この羊蹄山の雪解け水は伏流水となって滝のように湧出しているが、名水としてつとに知られ、遠方から汲みに来る人も少なくないという。

◎それはシェフ中道博の「夢」から始まった
 羊蹄山のその名水を、真狩村まで汲みにいっていた一人が、北海道のフランス料理界にこの人ありといわれた名シェフ・中道博(昭和26年生まれ)である。彼は、札幌にあるフランス料理店<モリエール>のオーナーシェフで、毎週1度、レストランの客に供する飲み水に、この湧き水を使っていた。
こうして通ううちに、彼は真狩村でこの地の豊かな食材をふんだんに使い、すばらしい料理をつくるユニークなレストランが開けたら、という「夢」を抱くようになる。 その彼の想いが、食材の仕入れで世話になっている村人(島口勝)を通じ、やがて村役場の振興課長(浦城義章)、助役(楠昭郎)、そして村長(八田昭七)の耳にまで届く。 幸運なことに、この村の八田村長は、
「真狩村の農業振興のためには、地産地消(地元で産出したものを、地元で消費すること)でなければならない。また、その農産物を加工して付加価値を高める必要がある」
と考える人であった。
 一方で中道は、阪神大震災前まで神戸にあった有名なフランス料理店<ジャン・ムーラン>のシェフ・美木剛の紹介で、札幌の<モリエール>を訪れた食客(原田勲、雑誌社を経営)と話をしているうちに、自分の「夢」についても口を滑らしてしまう。それを聞いた原田は、
「それなら真狩村のすばらしい環境に負けない食空間をつくって、ぜひ実現させるべきだ」 とアドバイス。この一言が<マッカリーナ>実現に踏み出す大きな一歩となった。 中道は美木の仲介によって原田のほか、料理書の編集者であり、フードコンサルタントでもある齋藤壽と懇意になり、グラフィック・デザイナーの田中一光を紹介され、その田中から建築家の内藤廣が仲間に入り、さらに<モリエール>の常連でもあったプランナーの東村有三が加わっていく。こうして、しだいしだいに専門分野の異なった人の輪が広がっていった。 田中や原田を除いて「団塊の世代」に近い彼らは、中道の「夢」に心から賛同したばかりか、自分たちの夢や理想を重ね合わせて、このプランにのめりこんでいく。彼らとってこのプロジェクトは、他人から依頼されたビジネスではなく、自らを賭けた若き日を髣髴とさせる「ロマン」ではなかったかと、著者は書いている。

◎北海道の星<マッカリーナ>の誕生
 平成9(1997)年6月、紆余曲折ののち、真狩村にレストラン<マッカリーナ>が誕生した。<マッカリーナ>という名称は、立ち上げたメンバーが、つねに「真狩はいいな、マッカリはいいな」と口癖のようにいっていたことによっている。そのうえイタリア語では、「マッカ」は豊かな大地を、「カリーナ」はかわいいを意味するというオチまでついた。 完成した<マッカリーナ>は、若手料理人を育成するための研修施設を備えたレストラン棟が木造平屋建てで、530平方メートル。そのすぐ横に200平方メートルの宿泊棟がついている。いわゆるオーベルジュ形式のレストランで、総事業費3億1700万円。トータルデザインはグラフィック・デザイナーの田中一光が、設計は日本建築学会賞、吉田五十八賞を受賞した内藤廣が担当した。運営は上記のメンバーと、真狩村とで設立した第三セクターが当っている。
 当初は、村議会の反対勢力に阻まれ、苦労したこともあったようだが、オープン翌年より7年間、黒字経営をつづけている。それだけでなく、<マッカリーナ>は津別町のチミケップホテルと並んで、北海道を代表する宿にまでに成長した。 どうして<マッカリーナ>が第三セクターとして成功したのか、それを解き明かすことによって、「地域振興のあり方と再生プランの方向性」を探ろうとしたのがこの本である。 さらに「食べる愉しみとは何か」、「自然環境と人と食材のあるべき関係」にも踏み込んでいるので、これからの「町おこし」や「村おこし」を考えていくうえで、有益な示唆を提供するものと思われる。

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