TPPで99%の国民が損をする
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息子 TPPに国は参加する方針みたいだけど、もうダメなのか。
親父 バカいえ、まだ何も決まってない。政府が情報公開しないから、まだ多くの国民がその「壊国」度合いに気づいていないだけだ。韓国を見てみろ。TPPの先行モデルといわれる米韓FTAの反対運動はすごいぞ(340ページ)。知れば知るほどひどいことがわかる。
息子 そうなのか。もっと情報を集めないと。これからが勝負なんだな。
大規模農家だってTPPには反対だ
長野県東御市・永井進さん(談)
昨年11月、野田佳彦首相がTPP(環太平洋経済連携協定)の事前協議へ参加すると表明した。その後TPPについて一般報道は以前ほど触れなくなったが、TPP推進派の言う「強い農業」の担い手とされる大規模農家はどう思っているのか。
長野県東御市で水稲約30haを中心に、酪農や果樹など有畜複合経営を実践している(株)永井農場の永井進さんに話を聞いた。永井農場は、浅間山麓の、決して条件に恵まれているとはいえない中山間地で「自分では田んぼがつくれない」という人たちの作業を請け負いながら規模拡大し、生産だけでなく、販売や加工なども手掛けている。昨年、地域社会の発展に貢献していると評価され、第40回日本農業賞で大賞を受賞した。
永井進さん(40歳)。(株)永井農場の代表取締役。水稲、酪農、果樹の複合経営で、もちやジェラートなどの加工も手掛ける。政府の食料・農業・農村政策審議会食料部会臨時委員 足元の暮らしを見つめ直す時期
TPP参加への賛否を問われればやはり反対です。食べものをほかの国に依存すれば、すごく大変なことになると思うからです。
そもそも経済成長といいますが、いまの日本はかなり豊かではないでしょうか。豊かなはずなのに夢が持てなくて毎年3万の人が自殺している。3万人といったらこの東御市の人口と同じです。先進国では物があふれているのに心が豊かじゃない。少し前までブラウン管だったテレビが薄型テレビに代わったかと思ったら今度は3D。このスピード感。どこまで行けば僕たちは「幸せ」になって、欲求が満たされるのか……。今はそういうものじゃなくて、もっと別の違うところに価値感を持っていく時期なんだと思うんです。足元の暮らしを見つめ直す時期なんじゃないか、と。
中国の富裕層に高く売れれば幸せなのか
TPPに参加すると、農家側にもメリットがあるという話が必ず出てくる。これからは農業も世界中を相手にビジネスができる。海外に輸出できる、と。でもそんなことができる農家はどれだけいるのでしょうか。中国の富裕層に高く売るといっても中国のバブルがはじければ終わりです。たとえ、それができたからといって僕は農家として幸せになれるとは思わない。なにか寂しい。中国の富裕層に高く売るより、適正な価格で日本人に買ってもらって食べ続けてもらうほうが豊かだと思います。
うちでは20年前から米の産直をしていますが、誰かに必要とされることは大きなエネルギーになります。だから農家はもっと自分たちがつくったものを食べてほしいとストレートにいうべきだと思うんです。
所得補償では農家は自立できない
TPPに参加して農産物の価格が下がった分は農家への補助金で解決すればいいという意見もありますが、それが農業のプラスになるとは思えません。実現可能かという点もわかりませんが、所得補償がどんどん出るようになったら非常に残念です。自立した農業とはいえなくなるからです。国民が農業者を必要だよ、その皆さんのために使ってもらいたいというのならいいですが、農家が食えないから税金を使うでは、農家は誇りを持てなくなる。そのようなところからは健全な後継者は生まれません。
自分たちのつくった農産物が適正な価格で評価されてこそ、農家は誇りを持てます。TPPが目指す社会には何でも安ければいいという流れがあるように思いますが、それはとても怖いことです。
大きい農家だけになったら農業はつまらない
TPPに参加しなくても日本農業は衰退するという指摘もあります。そのためには規模拡大。コストを下げれば経営も安定するといわれます。「規模拡大」「効率化」というのは聞こえはいいですよね。以前から叫ばれていることですが、規模拡大して果たして経営として成り立つのでしょうか。もちろん最低限の規模は必要ですが、規模拡大すれば、今度は規模拡大した農家同士でまた競争になる。それでも面積が日本の100倍、1000倍あるといわれるアメリカやオーストラリアの農業とは勝負になりません。
いまうちで耕作している田んぼは約30haです。そのうち約25haは地域の約200戸の農家から、農地をお借りしてつくっています。これをいまの設備でもっと規模拡大することもできるとは思います。でも、それが本当にこの地域にとっていい形なのか。永井農場だけがやっていればいいのか。社員を増やして、うちの社員だけが地域の田んぼにいるということでいいのか。僕はそうは思わない。本来農村には農業をやりたい人がいろいろいて、それらの人たちが多種多様なやり方をしている。それが農村の豊かさだと思う。つくり方も一人ひとりの個性があっていい。自分たちのやりたい農業ができないなんて、そんなつまらないことはない。
うちは基本的に地域で「やってほしい」と頼まれたときに、作業をひとつひとつ丁寧にやらせてもらっています。たとえば80代で機械作業ができないという人がいる。でも田んぼはつくり続けたいと思っている。だからできることは自分でやってもらう。できた米の半分くらいはうちでやったことだけど、日々の草刈りとか水管理とかは自分でやった。そうした管理をしたことで少しでも「自分の米」と思えることが、すごく大事なんだと思います。
永井農場で人気の杵つきもちとあげもち。これらを買いに、多いときは1日200人が農場へやってくる 永井農場から見える田んぼの景色 高齢化した小さな農家のことを効率を妨げる邪魔者のように扱う風潮がありますが、それは大きな過ちです。そもそも地域の人たちとコミュニケーションのない農業なんて、やっていても楽しくありません。楽しいと思えることはすごく大事なんです。田んぼに出て、作業合間の何気ない楽しい会話のなかに、先輩たちから学ぶべきことはたくさんある。そういう方たちに少しでも長い間、田んぼや畑に通い続けてもらえるようにすることが、地域の豊かさにつながっていくのだと思います。
強い農業とは、いつまでも必要とされる農業だ
少し前まで、「勝ち残る」「生き残る」「儲かる」「儲ける」という言葉がよく農業の本や雑誌のタイトルに踊っていました。農業ってスペシャルなことがないかぎり特別儲かるものじゃない。でも、ふつうに生活はできる。僕はこういう見出しを見ると、うすっぺらいなあと思ってしまう。お金で買えないもの、永井農場がいるから農業を続けていけるんだよ、とかそういったことを言ってもらえるほうが、どれだけ価値があるのかって。金儲けをするならもっと他に仕事は山ほどある。そこらへんが僕たちの農業をするうえでのプライド、誇りです。
勝つとか負けるとかじゃなくて、お互いがよくなること。消費者と生産者の関係もそうですし、生産者同士の関係もそうです。もちろん経営であり、企業であれば利益を出さなければいけない。でも儲けのためだけになった瞬間に、うすっぺらいものになってしまう。豊かさってもっと別の高いところにあると思うんです。地域の中での信頼であったりとか、必要とされることのほうが、何億円と稼ぐより重みがある。それを積み重ねていけばふつうに暮らしていけるくらいはやっていける。僕はそう思っているし、それがうちの農場の基本理念です。
TPPに参加して世界と勝負する農業を目指すというのではなく、消費者からも地域からもいつまでも必要とされる農業を構築していくことが、本当に強い農業につながっていくのではないかと思っています。
この記事の掲載号『現代農業 2012年3月号』特集:続 トラクタを120%使いこなす
ビシッと決めるぞ、アゼ塗り作業/もっと業務・加工用野菜をつくる/高接ぎ・中間台木で果樹品種をパワーアップ/自分で製材までやれば林業はまだまだ儲かる/表層攪拌更新の草地でアルファルファの根を見た/TPPで99%の国民が損をする ほか。 [本を詳しく見る]『よくわかるTPP 48のまちがい』鈴木宣弘 著 木下順子 著 米韓FTA批准が強行採決された韓国で20〜40代の青壮年を中心に強い反対運動が起きている。国民的議論に付さないまま進めてきたこの協定が、とてつもない屈辱的、売国的条項に満ち満ちていることが白日の下にさらされたからだ。 今、米国議会では「TPPでは韓国から引き出した以上の譲歩を日本に迫る」という驚くべき議論が展開されている。本書はそうした状況や米韓FTAの内容も紹介しながら、TPPを推進する側の論拠、主張を48項目に整理し、そのまちがいを一つひとつ丁寧に解説した。各項目読み切りでどこからでも読める。 [本を詳しく見る]
『TPPと日本の論点』農文協 編