●巻頭特集 農の仕事は刃が命
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包丁・ナイフ、収穫やせん定に使うハサミ、
刈り払い機にチェンソー……。
刃物の切れ味、作業性は、選び方や使い方、
手入れのしかたしだいで雲泥の差。『チェンソー』コーナーより
チェンソー一家、「目立てが命」が合言葉
福岡県八女市・大橋鉄雄さん
ずらりと5台のチェンソー。手前2台は枝打ち用で、他は木の伐採用。奥の2台は、音がうるさく近所迷惑になるので、もっぱら山奥で使う (写真は※以外、すべて赤松富仁撮影) 家族それぞれマイチェンソー
「今度はチェンソー? 目立てが見たい? いやあ、そんなに『現代農業』に載るのは恥ずかしか〜。でもよかですよ、いらっしゃい」
というわけで、刈り払い機の記事(106ページ)で登場していただいた大橋鉄雄さんのお宅に、再びお邪魔してみた。
「おもしろいね〜、山の仕事ちゅうのは。チェンソーがあるけん、なんでんできる」
普段から20町歩の山を管理している大橋さんにとって、チェンソーはなくてはならない片腕なのだ。見せてくださいとお願いすると、小屋の奥からまず1台出てくる、続いて2台目、3台目……、全部で5台がずらっと並ぶ。さらにもうひとつが別の場所にあるというから、合計で6台にもなる。
一番重いので9kgあり、これは馬力はあるけど、音がうるさい。息子の幸太郎さん用である(大橋さんが使うと、重くて「腕がどうかなる」)。一番小さいのは3・4kgで、片手で持てる。奥さんの富枝さん用である(ちょっとずつしか切り進めないので、大橋さんからすると「せからしか」)。当の大橋さんは中型で、音も静かなタイプを愛用。
家族がそれぞれ、お気に入りのマイチェンソーを持っているのだ。
目立てで、おもしろいほどよく切れる
富枝さん「目立てをしないと、切っても切っても、切れないですもんね」
鉄雄さん「逆に、目立てさえしておけば、チェンソーはおもしろいごと、木の中に入っていく」
富枝さん「その感覚はわたしにもわかる。仕事の早さがぜんぜん違うでしょう」
夫婦の掛け合いからも明らかなように、チェンソーは目立てが命なのである。ただ、闇雲に研げばいいものでもなさそうだ。
「知り合いの大工さんも、チェンソーの目立てをすることはするようだけど、最後は『いっちょん、切れんごとなった』(ぜんぜん切れなくなった)といって、うちに持ってくるもんね。それを研いでやるのよ」
大橋さん、目立ての請け負いまでこなしてしまうらしい。しかも、目立てゲージやアングルプレート、ヤスリホルダー、万力といった便利グッズは一切使わず、基本的にはヤスリのみの手仕事。そのいろはを教えてもらった。
目立て入門
▼目安は、刃の色、木クズの大きさ、そして直感
目立ての目安 刃の先(矢印)が白くなってきたら 左のように、木クズが細かくなってきたら まずは、目立てのタイミング。刃の先端が白くなってきた頃が潮時だという。これはすなわち、鋭かった刃先が潰れてきたことを意味する。また、木クズが細かくなってきたときも要注意で、それだけ、刃の食い込みが浅いと見る。
もっとも大橋さんは、木を切るその手の感触で、目立ての合図を感じとってしまうので、これらの診断はもはや必要ないという。一日中チェンソーを使うなら、昼休みには目立てをするのが無難だともいう。
研ぐ場所
(1) 刃。鋭くしておく
(2) デプスゲージ(刃が木に食い込む深さを調節する突起)。刃の目立てを繰り返すと、刃よりもデプスゲージが高くなることがある。すると刃の食い込みが悪化。刃を研いだあとは、デプスゲージの頭も削って低くしておく(写真のデプスゲージは刃よりもまだ低いので、そう神経質にならなくてもいい)
(3) ドライブリンク。刃もデプスゲージも削っていくと、今度はこの部分が刃の食い込みの邪魔をする。だいぶ使い込んだチェンソーの場合、ここも削る
(4) ドライブリンクの先端。ガイドバーの溝を掃除したり、チェーンオイルを送る部分なので、たまにはソーチェーンをはずして、研いで先端を鋭くしておく
チェンソーの構造と目立て 大橋さんは、刃がこんなにすり減るまでチェンソーを使い続けている(規格は違うが、▲ぐらいあった刃が●になっている) ▼刃だけでなく、デプスゲージも研ぐ
(1) 刃を研ぐ 刃の部分は丸ヤスリで。引かずに押すだけ。刃の部分にピッタリ合うようにヤスリを当てる。ガイドバーに対して垂直にヤスリを当てると、手前(●)が研げない。角度を倒しすぎると、奥(▲)が研げない ヤスリは手前を気持ち下げ気味に。上げすぎたり、下げすぎたりすると、研げない部分(ヤスリが当たらない部分)が出てくる 横も上も同時に研ぐ
(2)デプスゲージを研ぐ デプスゲージは平ヤスリで。引かずに押すだけ。ヤスリがぶれないように添え木(その辺に落ちている枝)を当てる 研いだあとの様子。刃とデプスゲージの高さの差(矢印)を、刃の厚さぐらいにする。デプスゲージが高すぎる(刃との差がない)と、刃の食い込みが悪くなる。デプスゲージが低すぎる(刃との差がありすぎる)と、刃が食い込みすぎる。デプスゲージは、研ぎ忘れに注意だが、ディスクグラインダーなどでラクして研ごうとすると差が広がりすぎてしまう
目立てが終われば、切れ味抜群 そして、いよいよ目立てのお披露目。ギーコギーコと大橋さんは、丸ヤスリをチェンソーの刃に押しつけていく。おお、鋭くなった!
「これだけじゃいかんのよ」
チェンソーの刃の向かいにはデプスゲージと呼ばれる突起(刃の食い込み調節)がついていて、そこも忘れず研ぐべきだという。刃がすり減って低くなる分、デプスゲージも低くしておかなければならない道理。目立てを何遍も繰り返したチェンソーなら、なおさらである。
その道のプロにとっては当たり前の工程かもしれないが、大橋さんにいわせると、「いが〜い(意外)とみんな、そういうところを見んのよね」。それで、「研いだのに切れない」となる。
▼ヤスリは常に持参
さて、目立ても終わり、実際に木を切ってもらうと、さすがはピカピカの刃。さほど力は入れていないはずなのに、みるみる切れる、大きな木クズも吹き出てくる。
ただ、このときも大橋さんはヤスリ持参である。
「石に当ててしまったときのために、道具は持っとかないかん」
ふいに切れなくなってしまった刃への応急手当である。
茶園でもチェンソー、日曜大工でもチェンソー
チェンソーの活躍の場は、なにも山ばかりではない、茶園でも。たとえば、坪枯れになってしまった場合、その茶株を園外に持ち出すのは手間なので、大橋さんはチェンソーで切り刻んでしまう。バランバランになった枝葉と幹は、そのままウネ間で分解するのだ。
それから、出色は、幸太郎さんのチェンソーアートである。ベンチに傘立て、郵便受けまで……、極めて実用的な品々をチェンソー片手に作りあげてしまう。聞くと、幸太郎さんにも目立てには一家言あり、「親父のやり方とは違う」という。
親子2代のチェンソー愛に圧倒されつつ、大橋家を後にしたのであった。
息子の幸太郎さん。座っているベンチと手前の傘立てと手に持っている「茶」の置物は自分が手がけたチェンソーアート 奥さんの富枝さん。林業もこなす 大橋さんと孫たち。大きさなイスは手作り。幸太郎さんが、ほぞ(突起)とほぞ穴をチェンソーで作り、組み立てた(※)
この取材時に撮影した動画が、ルーラル電子図書館でご覧になれます。 http://lib.ruralnet.or.jp/
この記事の掲載号『現代農業 2012年1月号』特集:農の仕事は刃が命
包丁・ナイフ/ハサミ/刈り払い機/チェンソー/ケイ酸で超多収/挿し木苗の不定根を活かす/果樹の夢のような仕立て/直売所が後継者を育てるしくみ ほか。 [本を詳しく見る]