月刊 現代農業2010年10月号 現場農家のクロピク以外の闘い方
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ホモプシスでしおれた葉が、雨で一時的に回復
ホモプシスでしおれた葉が、雨で一時的に回復。晴れるとまたしおれる

『ホモプシス根腐病と闘う』 コーナーより

露地キュウリ産地より

現場農家のクロピク以外の闘い方

 今年の須賀川は6月のキュウリ定植前に雨が続いた。この時期に乾燥した天気が続く年はホモプシスがたくさん広がるそうだが、今年は幸いにも被害が少ないようだ。

 水田と輪作すれば被害がないとか、湿り気の多い傾斜地の低地部分にはほとんどホモプシスが出ないと聞いた。ピシウム菌やエキ病菌は水のなかを泳いで伝染するが、ホモプシスには泳ぐ器官そのものがない。どちらかといえば乾燥を好み湿気を嫌う菌なのかもしれない。

 しかし少ないとはいえ、梅雨明けと同時に今年もホモプシスの被害はぽつぽつ出ている。7月末、しおれにくいはずの雨の日にも黄色くなり、元気なさそうにクタっとたれている葉があった。

木酢・キトサンでホモプシスに耐える強い根を

福島県須賀川市・根本栄一さん

木酢(左)とキトサン(右)
木酢(左)とキトサン(右)。 (問い合わせ (株)木紅木 TEL0246-36-5016)

40年間つくってきた土
クロピクは使いたくない

 被害にあった畑のすぐ隣に根本栄一さんの畑はある。根本さんの畑には葉がゴワゴワと硬くて元気そうなキュウリの樹が立ち並ぶ。今年もホモプシスを抑えたようだ。

 じつは根本さん、クロピクでの消毒は一度もしたことがない。「高校を卒業してからすぐに就農して40年。毎年せっせと堆肥を入れて、ようやく微生物がいっぱいのいい畑になってきた。それを土壌消毒で台無しにしたくない」からだ。

木酢とキトサンで新しい根をひっぱる

「ホモにやられた樹は何の抵抗もなくスポンと抜けるからすぐわかる。被害にあった人の畑に入ったことがあるが、たまたま俺のシャツがキュウリの樹に引っ掛かった。驚いたのはそれだけで樹が抜けたこと」

木酢(左)とキトサン(右)
根本栄一さん

 今のところ、根本さん自身のキュウリはホモプシスでしおれたことはない。が、ホモプシスの病原菌は確実に畑にいると根本さんは見ている。「収穫が終わった後に根を掘りだすと赤茶けた色になって細根もなくなってる。でも……新しい根もたくさん出てるんだ」。古い根が菌に侵されても新しい根をつくることで樹勢を保ち、収穫終わりまで逃げきっているのではないか、というのだ。

 そんな体験から根の大切さにあらためて気づいたそう。

 根本さんが発根促進のために使っているのが木酢とキトサン。水に木酢が200倍、キトサンが300倍になるように混ぜ、定植後は1週間に1回ほど1本当たり500ccを目安に株元にかけていく。収穫が始まると2週間に1回、通路からのチューブでのかん水に混ぜる。生殖生長のためにキュウリが根を横に伸ばそうとするのを、木酢とキトサンの力でぐいっと引っぱって助けてやるイメージだ。

黒ダネカボチャ台木は強そうだ

福島県須賀川市・森文男さん

森さん夫妻
森さん夫妻

 根本さんの近所でキュウリを栽培する森文男さんは周囲ではただ1軒、黒ダネカボチャの台木でブルームキュウリを栽培している。森さんも土壌消毒をまったくしないが、ホモプシスのような症状は出ていない。

 平成9年頃、須賀川では黒ダネカボチャの台木を使ったブルームキュウリの栽培が推進された。キュウリ産地の競争が激しくなるなかで品数を増やし、他の産地との色分けをはっきりさせるのが狙いだった。ところが市場では見栄えが悪いなどの理由で折り合いがつかず、出荷先が定まらなくなってきた。売り先のなくなった農家がブルームレスに戻っていったのが5年後の平成14年。ホモプシスが大流行し始めたのが平成15年頃。「周囲ではブルームからブルームレスに戻った途端に被害が増えたような気がする」というのが森さんの実感だ。

 最近の研究では黒ダネカボチャの台木がホモプシスに強いとわかっている。さらにもっと強い台木もあるそうだ。森さんの隣の地区でもホモプシスに困り、ブルームに戻した農家もいるそうだ。

土中でイナワラ発酵
地温45度で殺菌

福島県須賀川市・真壁信幸さん

図1 キュウリホモプシス根腐病菌がキュウリの台木としたウリ科植物の発病度に与える影響(岩手県農業研究センター)
図1
実験ではトウガン、ペポカボチャ、黒ダネカボチャを台木にすると発病度が低く、メロン、シロウリ、キュウリだと発病度は高くなった

 ホモプシスは熱に弱い。40度の熱なら2日で死滅することがわかっているし、実際にも神奈川県三浦市の露地スイカ地帯では太陽熱処理のみでホモプシスと闘う農家もいる(現代農業2001年6月号)。

 しかしハウスキュウリならまだしも、須賀川市の夏秋キュウリの作型(6月中旬定植)では露地での太陽熱処理は日程の関係で難しいといわれている。

 ところが須賀川の真壁信幸さんは5年前から太陽熱処理ではない方法で地温を高め、たくさん出ていたホモプシスの害を見事に抑えている。

「この辺りの農家は発芽をよくするためにタネを土中緑化させる人が多い。それを広めたのが3年前に亡くなった上野悦夫さんという農家。その上野さんに聞いた方法でホモプシスの被害がほとんどなくなったもんだから、今はすべての畑でやってる」

 定植の1カ月前に管理機で深さ30cm程度の溝を掘り、その穴の半分を埋めるくらいイナワラを入れていく(図2)。ワラの上にカルス菌20kg、菌のエサとして米ヌカなどを反当たり20kg、硫安も10kg入れる。土を戻してたっぷりかん水すると発酵が始まる。そのあとウネを立て、マルチで保温。発酵熱のピークを定植直前に持っていく。

図2 真壁さんが上野さんに教わったイナワラ土中発酵の方法(材料は反当たり)
図2

 もともとは畑の水はけが悪く、暗渠を入れるよりもイナワラを入れて排水性をよくするというのが狙いだった。イナワラを早く分解するためにやり始めた土中発酵だったが、どうもその発酵熱がホモプシスに効いているようだ。

 上野さんが遺した資料には「地中温度45度を確認」と書いてある。もしそうだとすると、少なくともウネ内のホモプシスは熱で死滅しているはずだ。

高pHでホモプシスを抑えた
石灰防除も効果あり

岩手県陸前高田市・大場桂さん

岩手県紫波町・漆澤宥蔵さん

 須賀川から少し離れた岩手県でもホモプシスは猛威を振るっている。自根キュウリを栽培する大場桂さんはホモプシス対策にカキ殻石灰を使ったことがあるそうだ。「加工食品の商品開発部に勤務していたので食品の殺菌には強アルカリがいいことはわかってました。ホモプシスも菌なので石灰でも効果があると踏みました」。そんな考えで、元肥としてカキ殻石灰を地面が真っ白になるくらいまき、活着後は1週間に1度、石灰上澄み液をかん注する。そんなことを繰り返しているうちに土壌pHは7.5まで上がった。「ホモプシスは完全に抑えられました……が、あまりにpHが高かったのか生育も抑えられました」。

 強酸でも殺菌できるはずだと木酢を原液で株元に徹底的にかん注したこともあるが、これは効果なし。ホモプシスは酸性土壌よりもアルカリ土壌に弱いのだろうか。

 同じく岩手県の農家、漆澤宥蔵さんは豚糞堆肥に生石灰を混ぜて水分を飛ばしたグリーンパワー(2009年10月号)をかれこれ15年間使っている。元肥の牛糞堆肥4tに加え、グリーンパワーを1t入れてpHを6.7に保つ。そのせいかホモプシスはもう15年間一度も出たことがない。キュウリの最適pH(6前後)から外れた数値なので指導員に注意されることもあったが、それでも高品質のキュウリがとれて収量も悪くないので続けている。

米ヌカで微生物を殖やし、土壌病害を抑える 根本さんの畑の敷きワラをめくると菌糸がたくさん見える。
米ヌカで微生物を殖やし、土壌病害を抑える 根本さんの畑の敷きワラをめくると菌糸がたくさん見える。元肥はモミガラ豚糞にボカシ肥料。定植後もボカシ肥料を表面施用して微生物いっぱいの土をつくり、菌体バランスのいい畑にする

生長点をたくさんにする整枝法も有効

通常の子ヅル4本整枝と比べると孫ヅル6本整枝は根量が多いと思われる

 スイカでは地上部のツルの伸び方と、地下部の根の伸び方は比例するとよくいわれる。茨城県筑西市の下条泰雄さんは「孫ヅル6本整枝」を土壌消毒と組み合わせて、ホモプシス根腐病対策をしているそう(2010年6月号)。この整枝法は生長点を通常の「子ヅル4本整枝」よりも多くつくるので、生長点が増えたぶん、スイカは根を多くだすようになる。ひとつの根が病原菌にやられても他の根が頑張る分、地上部の萎凋症状が回避できるのだろうか。

 岩手県農業研究センターの山口貴之さんによると、キュウリでも生長点をたくさんにするやり方は有効みたいだ。試験では6月4日定植、1節摘心と2節摘心で収穫を続け、7月16日以降放任区と8月3日以降放任区(慣行)に分けた。結果は表のとおり。

 ホモプシス対策は根を元気に保つことがカギになるのは確かなようだ。

キュウリの放任管理時期によってのしおれ状況と
商品果収量(岩手県農業研究センター)

区名 50%
萎れ日
100%
萎れ日
商品果収量
(kg/株)
土壌消毒区 8/7 11.70
早期放任  側枝1節摘心区 13.88
側枝2節摘心区 8/4 11.74
慣行放任 側枝1節摘心区 7/31 8/12 6.42
側枝2節摘心区 7/15 8/4 6.98

土壌消毒を行なわなかったすべての株の根に感染が見られたが、早期放任区のしおれは軽く、収量も多かった

米ヌカで真っ白に
カビを生やす

福島県須賀川市・安田幸徳さん

 畑に徹底的に米ヌカをふる須賀川のキュウリ農家・安田幸徳さん(現代農業2010年6月号)の畑にもホモプシスは出ていないそうだ。

「周りではたくさん出てるけど、うちでは出ないね。米ヌカを使いはじめてからネコブセンチュウを土壌消毒なしで抑えられるようになった。だからホモプシスにもいいのかもしれない」。安田さんは1月中旬に米ヌカをブロードキャスタで1.3反の畑に80袋と大量にまき、かん水する。すると1カ月後には菌糸の長さ2、3cmの立派なカビが一面にびっしり広がる。

 安田さんだけでなく、今回お話を聞かせてもらった農家は皆、それぞれの対策に加えて土壌の菌体バランスもかなり意識していた。ホモプシスも糸状菌の一種だ。もしかすると拮抗作用によって病原菌を抑えることができるのかもしれない。

株元守ってしおれ知らず

マルチ畦内消毒法を行なった場合

 クロルピクリンを使った「マルチ畦内消毒法」(239ページ)は、先にウネ立て・マルチをし、ベッドの中だけに薬剤を集中して入れ、株元付近の病原菌を徹底的に殺菌する方法。だから、株元からある程度離れた通路などの土壌中には、ホモプシス菌が生きている。汚染された部分にキュウリが根を伸ばすと、当然その根は感染するわけだが大丈夫なのだろうか?

 236ページの永坂先生の研究によると、根を伸ばした先が菌に感染して水を吸えなくなると、ホモプシスのいない株元付近から新しい根が出て、代わりに頑張るようになるとのこと。

 株元の根さえ元気に保てばホモプシスには勝て

る!?――土壌消毒以外の方法にも、このことはヒントになりそうだ。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2010年10月号
この記事の掲載号
現代農業 2010年10月号

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