月刊 現代農業2010年9月号 マタタビ猫用品
月刊 現代農業
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●巻頭特集 山が好き!

巻頭写真

山には、山でしか採れない宝物がザックザク。
儲かるもの、くらしに役立つもの。
荒れた山も息を吹き返すアイデアぞくぞく。

山のめぐみでヒット商品 コーナーより

愛猫チイちゃんと商品開発
マタタビ猫用品

長野県長和町・橋詰悦男さん

直売所の一画をしめる橋詰さんの「猫ちゃん用品」
直売所の一画をしめる橋詰さんの「猫ちゃん用品」

マタタビ御殿が建った!?

 道の駅「和田宿ステーション」の棚の一画に、ずらりと並ぶマタタビの枝。陳列箱には「猫ちゃんストレス解消」との但し書き。これがいま、かなり売れているらしい。地元の人はもちろん、夏場に観光に来る町の人は、観光バスから降りるなりマタタビ猫用品へ一直線に飛びついてくれる。

 橋詰悦男さんは建築の仕事をしながら、暇なときは野菜や山菜を直売所に出していた。しかし数年前から建築の仕事がだんだんと減りだし、直売所でもうひと頑張りしないといけなくなった。

 直売所に出すキノコや山菜をあっちこっちの山にとりにいく橋詰さんは、山に入る前にどんな植物にどんな効能があるか調べるため、山野草図鑑を必ず読む。ふと目にとまったマタタビのページには人間にとって滋養強壮効果があると書いてあった。

だから「マタタビ(又旅に出られるという意味)」と呼ばれるそうだが、それは果実の話。

 もう一つ書いてあったのが「猫にマタタビ」。こっちは枝の話でもある。山を管理する人にとって、マタタビは材木用の木にツルを絡みつけ倒してしまうので、枝打ちしないとならず、邪魔者でしかない。だから誰も売ろうなんて思いつかないはず。猫用に売りだしたら面白いかも……はじめはその程度だったが、これが予想外に売れた。年間最高27万円と、野菜の売り上げをあっという間に追いこした。「最初は様子見で少しずつ出していたが、今は1カ月に140パックも売れることがある。それを見て、直売所の仲間がうちの新築のことを『マタタビ御殿』なんて呼びだしたんだ!」

橋詰さん夫婦
橋詰さん夫婦
左から、マタタビ棒(250円)、ネコじゃらし(350円)、山鳥ネコじゃらし(450円)、マタタビ一本棒(300円〜)
左から、マタタビ棒(250円)、ネコじゃらし(350円)、山鳥ネコじゃらし(450円)、マタタビ一本棒(300円〜)
6月下旬のマタタビ。花が咲きはじめる初夏だけ葉が白くなる。低地の明るいところですぐに見つかる
6月下旬のマタタビ。花が咲きはじめる初夏だけ葉が白くなる。低地の明るいところですぐに見つかる

猫は、樹皮の下の薄皮が好き

 マタタビにはマタタビラクトンという揮発性フェロモン物質があるそうで、これを嗅ぐと猫はたちまち興奮する。ただこの成分、マタタビの木全体にムラなく含まれているわけではなさそうだ。

 どこにマタタビラクトンが多いのか教えてくれたのは愛猫のチイちゃんだった。橋詰さんは新しい商品をつくるたびに自宅の猫で試している。下手につくれば興味をしめさずそっぽを向いてしまう、厳しい試験官だ。

 マタタビの枝は樹皮つきだと猫の反応が悪かった。だからといって樹皮を厚く削り落としてしまうと、これまたそっぽを向かれる。猫が好むのはマタタビの枝全部ではなく、樹皮と芯のあいだにある2mmほどの薄皮だったのだ。だから樹皮は薄く削るのがコツ。そうすると猫はわき目もふらずマタタビに飛びつき、舐めて薄皮がブヨブヨにふやけたところを引っ掻いて、削りだされた木の粉を食べる。

 他にもいろいろわかってきた。たとえば、枝の芯の部分に空洞のあるものは猫の喜び方が全然違う。「虫が入った穴だと思うんだけど、『虫えい果』と同じで猫にとっては極上品みたい」。マタタビアブラムシがなかに入って産卵したマタタビの果実には虫瘤ができて「虫えい果」と呼ばれるのだが、これが漢方では貴重品。猫にとっては、「虫えい枝」にもかなりの価値がある模様。

秋に収穫して簡単乾燥

 マタタビは花の咲く初夏になると葉の色が白くなる。これは花粉を運ぶ虫を呼び寄せるため。遠くからでもマタタビとわかるので見つけやすい時期だが、橋詰さんは夏には枝をとりにいかないそうだ。湿度が高く、加工前の乾燥に時間がかかってしまうからだ。

 夏に葉の白くなった場所を覚えておいて、秋口に収穫。とってきたマタタビの枝は、樹皮をむき、納屋の屋根下に吊るし乾燥させる。秋は湿気が少ないので、3日でマタタビ特有のきれいな白色になり、半月もたてばカラカラに乾く。野菜のできない冬場、乾燥した枝をノコギリで切り、猫用品をつくる。

曲がった部分は「ネコじゃらし」に

 ツル性で木に絡みついて育つマタタビは曲がった部分が多く、先端に向かって細くなるので、均等な商品をたくさん作るには難しい素材。だが、せっかく採ってきたのだから、まるごと使っていっぱい売りたい。橋詰さんは一本の枝を細い部分、太い部分、曲がった部分などに長短をつけて切りわけ、それぞれの素材にあった商品をつくる。

 ある程度まっすぐ育ち、太さの均一な枝は皮をむいただけでそのまま「マタタビ棒」。

マタタビを一心不乱に舐める愛猫のチイちゃん
マタタビを一心不乱に舐める愛猫のチイちゃん

 それ以外の部分は、細い枝の先に糸をつけ、糸の先端に短い材を結んで「ネコじゃらし」。釣り竿のようにブラブラさせて遊んでやる。糸の先に、猟友会にゆずってもらった山鳥の羽をつけたものは、少し高級な「山鳥ネコじゃらし」として売る。ゆれる羽をみると野生の血が騒ぐのか、猫は大興奮。

マタタビには捨てるところがない

 樹皮も捨てずに売る。ある日、削り落とした樹皮の上で猫が気持ちよさそうにゴロゴロしているのに気づいた。さっそく100円ショップの枕カバーに詰めて「猫用枕」。

 それから商品にはなっていないが、実験中のものがまだまだある。機嫌が悪くなってしまったチイちゃんに、橋詰さんが「ほい、チイちゃん、ほい」と取りだしたのはマタタビの根っこ。猫の滋養強壮に効果がある気がして使っている。尖がった根っこが顔に刺さるのにも負けずかじりつくのを見ると、よっぽど好きに違いない。さらに橋詰さん、葉っぱも猫用ふりかけにして売れないかなんて考えている。

 ところで、橋詰さんの今一押しの新商品はマタタビキーホルダーだそうだ。大事なカギをなくしても、猫がみつけてくれる……かもしれない。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2010年9月号
この記事の掲載号
現代農業 2010年9月号

山のめぐみでヒット商品/山で栽培して売る/山の力をくらしに活かす/荒れた山、ここから手をつけた/お米の乾燥/果樹 私の葉面散布/鳥獣害対策2010/飼料イネ利用の周年放牧/秋野菜は育苗が決め手/集落営農が担う地域の新事業2  ほか。 [本を詳しく見る]

野山・里山・竹林 楽しむ活かす 食べる薬草事典

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