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休耕田でホンモロコを養殖してみませんか?

田んぼを造成したホンモロコ養殖池。奥に見える青い箱が自動給餌機
田んぼを造成したホンモロコ養殖池。奥に見える青い箱が自動給餌機

七條喜一郎

鳥取県がたった4年で日本一の産地に

 休耕田を利用したホンモロコ養殖が、いま鳥取県から全国に普及し始めています。

 鳥取県では平成13年に鳥取大学と県水産試験場が埼玉県の養魚家から種苗卵を導入して養殖試験を開始しました。その頃は農村部の高齢化、過疎化、米の減反政策等による休耕田及び耕作放棄地が増加した時期であり、その有効利用法が模索され始めていました。そこで、平成15年に4戸の農家が休耕田を活用して、ホンモロコ養殖を試みたのです。

 反当たり収益が米の3〜4倍で、しかも、初期投資が少なく、軽労働で高齢者の仕事として最適なため急速に普及し、平成19年度には生産者戸数において埼玉県を抜いて日本一(54戸)になりました。また、生産量の増加に伴い、佃煮等の加工品の開発に着手しました。平成20年にはこの取り組みが「農商工連携88選」に認定されました。

 休耕田を活用したホンモロコの養殖法は、平成5年に埼玉県水産試験場が低水深池(10〜30cm)で養殖試験を行なったことから始まります。水田の転作作物の一つとして開発したものです。埼玉県では古くから、冬に河川で獲れるモツゴ(くちぼそ)を雑魚煮として食べる食文化があり、これに代わる魚として、琵琶湖の固有種であるホンモロコを導入したのです。

軟らかく生臭くない懐石料理に使われる珍味

 ホンモロコはもともと琵琶湖だけにしか生息しない琵琶湖固有種で、コイ科タモロコ属に属する魚です。体型が細長く、銀白色で、体側に1本の縦縞がある7〜12cmの魚です。日本各地の河川や湖沼にはこのホンモロコに似た魚が多種属(モツゴ属、ムギツク属、スゴモロコ属、ヒナモロコ属)おり、とくに、タモロコ属のタモロコ・スゴモロコやモツゴ属のモツゴ・シナイモツゴなどと混同されることが多いようです(写真)。

ホンモロコと間違えやすい川魚
タモロコ ウシモツゴ
タモロコ ウシモツゴ
モロコ シナイモツゴ
モロコ シナイモツゴ

 これらの詳細については魚類図鑑にゆずりますが、ホンモロコのもっとも大きな特徴は食味です。すなわち、骨や、頭などが軟らかく、川魚特有のニオイがまったくなく、肉質に甘味があり、食べやすく万人に好まれます。食味によってモツゴやタモロコとは明確に区別できます。また、手に取った感触にはザラザラ感がなく、ツルツルした感触があります。カルシウム、リン、レチノール(ビタミンA)が豊富なため、発育期の子供や高齢者の最適な食材となります。

 ホンモロコは滋賀や京都では平安時代から淡水魚の王様として珍重され、茶懐石に用いられる高級魚です。しかし、近年では琵琶湖の漁獲が激減したことから幻の珍味となっております。

田の土を盛り上げて造成 一人5aが目安

 ホンモロコは基本的にはコイやフナと同様に溜め水で養殖します。したがって、イワナとかヤマメのように大量の水は必要ありません。水田の表土を20cm程度剥がし、その土をアゼに盛り上げ水深を40〜60cmになるようにします(図)。

養殖池造成の様子
養殖池造成の様子
休耕田を養魚池に改造する方法(例)
休耕田を養魚池に改造する方法(例)
エサに群がるホンモロコ
エサに群がるホンモロコ

 4月中旬から下旬、醤油粕あるいは鶏糞を養殖田内の数カ所に盛り上げ、そこに水を張ってワムシやミジンコを発生させます。5月中旬から下旬にかけて孵化した稚魚を放流し、初期の1カ月程度は粉餌(マッシュ)を給餌します。稚魚が1.5cm程度に成長した段階から、粒状のエサに切り替え自動給餌機で1日3〜5回給餌します。ホンモロコは胃を持たないため、頻繁にエサを食べます。そのため自動給餌機は欠かせません。

 10月中旬になると、水温の低下によりホンモロコがエサを食べなくなります。この頃から12月上旬までの間に取り上げを行ない出荷します。

 収穫時のホンモロコの大きさは5〜12cmで、生産者によって大きな差がありますが、平均して5a当たり100〜150kgの収穫があり、売上額は20万〜30万円程度が見込めます。7〜8cm以上なら京都の高級料亭など向けに高値で取引されます。逆に5〜6cmと小さいものは付加価値をつけられる加工販売のほうが適しています。6〜7cmが一般販売向けです。

 なお、初期設備の経費は、水田改造費、電気設備費、資材小屋、自動給餌機などを合わせると、一般的には5aで26万円程度かかります。

中山間地の田んぼに向く

 休耕田を利用する養殖法は平野部、いわゆる水田地帯では行ないにくいです。その理由として、第一に水田地帯では春先・秋口に水路に水がなく給水できない、第二に大雨による増水被害を受けやすい、第三に農薬等の影響を受けやすい、という点が挙げられます。この点、中山間地では、年間を通じて給水が可能な地域もあり、増水の被害も少なく、水質もよく農薬等の影響も少なく、養殖向けであるといえます。

 飼育管理においては、できるだけ自宅に近い場所がよく、自動給餌機や水中ポンプを使うためには電源も欲しいところです。また、できれば養魚池のそばまで車が入れる道があると都合がよいでしょう。

 さらに欲をいうと、養魚する水田に接する排水路が少し下がった位置にあると、収穫作業が簡単にできます。

懐かしい川魚で「むら起こし」

八頭ホンモロコ共和国で開発した加工品
生産者有志により加工グループ「八頭ホンモロコ共和国」を結成。5商品を開発し、百貨店や道の駅で販売
マリネ 佃煮「もろっ娘」 茶漬け
マリネ 佃煮「もろっ娘」 茶漬け
八頭ホンモロコ共和国国王、田中功氏(右)と筆者
八頭ホンモロコ共和国国王、田中功氏(右)と筆者。ホンモロコ加工品を「ダイニング&うまいものショウ」に出展

 現在各地に広まりつつあるホンモロコ養殖は規模が零細なため、産業的にみると経済効果を生むほどのものではありません。したがって、若い世代が、これによって生計を立てるというものではなく、第一線をリタイアした人、あるいは、副業的に先祖伝来の土地を有効活用して、楽しみながら小遣いを稼ぐ程度のものです。現在ホンモロコの全国的な知名度はほとんどなく、もし大規模に養殖するとした場合、販路開拓費・設備・運営経費等による採算性は低いといえます。

 しかし、過疎化、高齢化が進む全国の中山間地の「むら起こし事業」としては最適ではないでしょうか。海から遠く離れた地域では古くから川魚を食べる食文化があり、流通の発達した現代においても、その食文化は残っています。したがって、これらの地域ではこのホンモロコは懐かしい味、美味しい味なのです。

 ちなみに、ホンモロコ養殖の先進県である埼玉県においては生産されたホンモロコはすべて県内で消費されると聞いております。また、最近養殖を始めた岡山県北部の山間地にある美咲町周辺でも同じです。鳥取県ではある程度京都をはじめ関西地方に出荷していますが、それにしても70%は地元消費です。

 このように、ホンモロコ養殖は「地域に根付いた食材」を作るという意味で価値があり、今後ますます普及するものと考えております。そして、全国に「ホンモロコ」という言葉が浸透することによって、田舎から東京へと発展するものと考えられます。

 まあ、のんびりとスローライフにいきましょう。

((有)内水面隼研究所)

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現代農業 2010年7月号
この記事の掲載号
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