マリーゴールドの花を食害するナメクジ 必勝法公開 ナメクジ対策
ナメクジのおもしろ生態と防除のコツ
田中 寛
ナメクジは神出鬼没のやっかいもの。アブラムシやイモムシのようにいつも葉の上にいてくれるわけでないから、農薬を使って防除しても、はたして効いているのかいないのか、よくわからない。
そんなナメクジのおもしろ生態と防除のコツをお教えしましょう。
通称チャコウラ、日中は落ち葉や石の下に潜む
ナメクジは陸に上がった巻貝の仲間で、カタツムリとは近い親戚、二枚貝やタコやイカとはやや遠い親戚にあたる。現在、日本の畑や庭にいるナメクジのほとんどはチャコウラナメクジ(以下、チャコウラという)という種である。第二次大戦後に日本に侵入し、それまで日本にいたナメクジたちと入れ替わった。
チャコウラの被害はナスやピーマンなどの野菜、ミカンやイチジクなどの果樹、マリーゴールドやサルビアなどの花卉でよく見られる。
そんなチャコウラだが、じつは最近まで生態がまったくわかっていなかった。昼間は落ち葉や石の下などに潜み、夜にだけ人目につくチャコウラの生態調査が難しいのは無理もない。
チャコウラが年一世代で、秋から春にかけて卵を産むことなどがわかったのは、大阪市立大学の宇高寛子さんの息の長い地道な研究のおかげだ。また、かしこい防除のコツを本格的に研究しはじめたのは私と同僚たちである。
生息密度を知るのに役立つナメトラを作ろう
ナメクジの生息密度や活動や防除効果を調べるために、私は、ナメキールなどのメタアルデヒド粒剤をプラスチックケースに一g置いたトラップ(以下、ナメトラという)を使っている。
メタアルデヒド粒剤はナメクジやカタツムリを誘引して殺す効果がある。だから、ナメトラはちょうどゴキブリホイホイのようなものだと思ってもらえばよい。
このトラップは残念ながら試作品で、一般に手に入れることはできないが、心配はいらない。サランラップや紙の上にナメキール1gを置くだけでも立派なナメトラになる。
ナメトラをうちの研究所のミカン畑に4〜11月の間、週に2回置いて、チャコウラの誘殺虫数を調査したところ、調査期間中ずっと誘殺されるが、5〜7月に多いことがわかった(図1)。
図1 ナメトラでのナメクジ誘殺数の季節消長 また、大阪府の花壇苗のハウスにおいて、いつ被害が発生するかという調査を行なったところ、栽培していた29品目のうち、サルビア、マリーゴールド、ペチュニア、観賞用トウガラシの4品目で5月に被害が出ることもわかった。
ナメクジによるナスの果実の被害 チャコウラは生きている作物をみさかいなく食べることはない。ナス科、シソ科、セリ科、アブラナ科、キク科などに被害作物が多いが、たぶんチャコウラが好むにおいや味の成分が含まれているのだろう。
チャコウラは、生きた植物よりむしろ、死んで腐敗した植物や動物(生物遺体)を好む。生物遺体からはアルデヒドやアルコールが発生し、チャコウラはこれらのにおいにひかれてやってくる。ビールによく集まるのもこのためである。
登録農薬と使い方
ナメクジに対して登録されている農薬は、(1)メタアルデヒド粒剤(ナメキール、ナメトックスなど)、(2)メタアルデヒド水和剤(マイキラーなど)、(3)リン酸第二鉄粒剤(スラゴなど)、(4)カーバメート系粒剤(ラービンベイト2など)、(5)有機銅水和剤(ICボルドー)の5つのグループに分けられる。
このうち、(1)(3)(4)はナメクジを誘引して殺す誘殺剤である。(2)はメタアルデヒドを水溶性製剤にしたもので、薄めて除草剤のように散布すると、いわば草や生物遺体がメタアルデヒド粒剤に化けてナメクジを誘殺することになる。(5)は忌避剤で、ナメクジを殺すことはない。
(5)は作物に直接散布してもよいが、(1)〜(4)は作物に直接かからないように散布しなければならない。なお、使用できる作物が限定される薬剤もあり、詳しくは使用時に薬剤のラベルをきちんと読んでください(どんな薬剤でも同じ)。
防除効果を調べてみると
チャコウラの防除効果を測ってみよう。図2に、うちの研究所のミカン畑でナメキールとラービンベイト2をそれぞれ500m2処理し、処理前後のナメトラ誘殺数を調査した結果を示した。
図2 ナメクジ剤による防除効果 補正密度指数とは、無処理の場合の生息数を処理前・処理後とも100とし、それに対する各処理区の生息数を比率で表わしたもので、防除効果を判定するために便利な指数である。数字が小さいほど防除効果が高いことを表わしていて、害虫ではふつう、0〜10→効果は高い、10〜30→効果はある、30〜50→効果はあるがその程度は低い、50〜→効果は低い、と判定される。図2の結果から、ナメキール、ラービンベイト2とも効果は高いと判定された。
ナメトラ(メタアルデヒドトラップ)で誘殺されたナメクジ(左)と誘殺前の状態。薄赤い粒がメタアルデヒド粒剤 ここで、ナメトラとナメキール散布処理の違いをもう一度説明しておくほうがよいだろう。ナメトラを畑や庭に5〜10カ所置いたとしてもナメクジの防除は無理であり、ナメキールは100m2当たり100g処理した時に効果を発揮できる。ナメトラはゴキブリホイホイと同じで、ナメクジの防除に使うのではなく、生息密度や活動性を測っているのだ。だから、防除効果の判定に使える。
防除効果には処理前の生息密度が影響する
ナメクジの生息密度が高いとナメキール(スラゴでもラービンベイト2でも同じ)がすべてのナメクジに行き渡らず、生き残るナメクジがある。図3に、私たちがナメキールを処理して、処理前の生息密度(ナメトラ当たり誘殺数)と防除率(一〇〇―補正密度指数)を比較した結果を示した。
図3 ナメキールによる防除前の生息密度と防除率の関係 これによれば、処理前の生息密度が10を超えると、そこにいるナメクジを殺しきれず、生息密度が高いほどナメクジの防除効果が低いことがよくわかる。このようにどんな薬剤でも、ナメトラを使えば防除効果を簡単に測ることができる(これをモニタリングという)。
あとひとつ、ナメクジ防除の大きな問題点は、畑や庭の周囲からナメクジが侵入してくることである。ナメクジの侵入が多い場合には、薬剤でいったん90%以上防除しても、1カ月もしないうちに生息密度が元に戻ってしまうことがある。こんな時にもナメトラによるモニタリングが役に立つ。
チャコウラ防除戦略
図4に、チャコウラの防除戦略を示した。戦略というといかめしいが、なんてことはない。行きあたりばったりではなく、筋道を立てて退治してやろう、というだけのことである。
図4 チャコウラナメクジの防除戦略 スタート地点は(0) (1) (2) のどこでもよい。自分の畑や庭のチャコウラの生息密度を測って、「ナメトラ誘殺数が3匹より少ない→防除不要、ナメトラ誘殺数が3匹以上→防除」。いろいろと書いてあるが、要点はただこれだけ。これだけであなたのナメクジのお悩みの90%以上は解決される。
本当は「ビールがチャコウラを防除できるか?」とか、「銅の効果はどれくらい?」とか、「未登録の防除資材の効果を測ってみたら?」とか、「発生源をつきとめるための地図カルテ法」とか、もっといろいろと書きたい。しかし、なにぶんスペースが限られている。文章も簡潔にするためにやや堅苦しくなってしまった。
自分の本の宣伝になってしまうが、詳しくはまもなく農文協から出版される『ナメクジ――おもしろ生態とかしこい防ぎ方』を読んでください。
(大阪府環境農林水産総合研究所)
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