●2010年 品種選び大特集
直売所名人はどうやってタネを買っているか![]()
直売所名人は、安売り競争しないために、たくさんの種類をつくる。
人とは違った品種で勝負する。
定番品目でも人と出荷時期をずらす。
揃いや大きさより、味重視の品種を選ぶ。
ムダなく安くタネを買う。
一部は自家採種もする。
――そんな直売所名人たちのタネ情報の集め方、買い方に迫る特集。
読者アンケートからも珠玉の情報が集まりました。
※たくさんの方々にアンケートにご協力いただきました。ありがとうございました。
筆者 果樹産地の直売所に野菜で勝負の知恵者
1人勝ちできる品種の選び方
斎藤修司
果物地帯だから野菜で勝負しよう!
私は4年前、44歳で早期退職をし、就農したばかりです。それまでも農業を手伝ってはいましたが、父親が目を悪くしたので今のうちから後継ぎとしてやっていこうと考えたからです。
私の住む福島市北部は果樹栽培が盛んなところです。ほとんどの農家が果樹専業という経営形態をとっている中、わが家ではモモ・リンゴを50a、野菜を50aとほぼ半分ずつの栽培を長年続けてきました。
7年前からは地元JAの運営する農産物直売所ができ、わが家でも販売経路のひとつとして活用してきました。果物は品種・数量ともに豊富に並びますが、野菜に関しては季節によって偏りがあります。直売所に出荷するのならまだまだ開拓の余地がある野菜で勝負しようと考えました。この直売所には1200人くらいの出荷会員がいますが、野菜を出荷されている方は60代以降の年配の方が多く、それに続く私くらいの世代は数えるほどしかいません。それならば柔軟で戦略的な発想を取り入れて、安売り競争になりがちな現状を打開していけるのではないかと思っていろいろ工夫しているところです。
どんな品種を選んでいるか
わたしのタネ選びの基準3つ
わたしのタネ選びの基準は次の3つ。
1.おいしい品種
2.まわりの人があまりつくっていない品種
3.作型を変えることができそうな品種「おいしい」というのは1番重要なポイントで、味の好みは人それぞれでも、自分が食べておいしい品種なら8割以上のお客さんにもおいしいと思ってもらえます。
その上で、競争相手が多い直売所に出荷するのですから、「まわりの人があまりつくっていない」と思う品種を選びます。
たとえば、つるなしインゲンのサクサク王子(サカタ)は他のつるなしインゲンだと曲がってしまうのに、真っ直ぐスマートなので袋詰めしたときに見栄えします。他のインゲンといっしょに並べると、これから先に売れていきます。キュウリのシャキット(タキイ)はイボがたくさんあって昔ながらの香りがする4葉系のキュウリ。イボがとれやすいので市場流通には向かない、直売所ならではの品種です。ハクサイならキムさん75(ナント)。ふつうのハクサイは鍋に入れると汁ばっかり増えてきますが、これは水っぽくなくて甘味が強い。漬物にしても、生で食べてもおいしい品種です。
そして、春まき品種でも夏まきできるものなら、直売所の棚に並ばなくなる晩秋に出すことができます。たとえば、インゲンのさつきみどり2号(タキイ)。揚げ物でも煮物でもどんな料理にもピッタリで、背が低いから管理がしやすい品種です。いろんな使い道があって人気の高いインゲンですが、この辺では誰も遅出しをやらないので1人勝ちです。
さつきみどり2号(タキイ種苗提供)
「揚げ物でも煮物でもどんな料理にもピッタリ」と書いて売る、味で勝負できるインゲンシャキット(タキイ種苗提供)
歯切れや肉質のいい4葉系のキュウリキムさん75
2009年のハクサイはついにこれしかつくらなかった。競争相手の多いハクサイの中でも「売り」になる品種(黒澤義教撮影)タネをどうやって買っているか
ブロッコリーは青木さん流に2本植えで、少ない面積でふつうの2倍の本数をとる。ふつうの巨大サイズが1個150円だとすると、この小さめなものも140円で売れる 情報はどこから?
品種の情報は、種苗会社のカタログと、インターネットでの品種紹介サイト、地元種苗店からの紹介が主体です。
地元の「今川屋種苗店」にはお客さんも多いので、「売れ筋の品種」が何なのかを確かめることができます。それを知った上で「まわりの人があまり作っていない品種」を判断します。
その上で、本誌でもたびたび書いておられる同じ福島県内の鈴木光一さん(108ページ参照)の種苗店から情報を得ることが多くなりました。
鈴木さんの情報は、ご自身でも実際に栽培した実体験に裏打ちされたものです。加えて、鈴木さんの種苗店のある郡山市の年平均気温は13度前後。季節ごとの気温変化もわが福島市とほぼ同じです。種苗会社のカタログ情報に鈴木さんの情報を重ね合わせて選べるのは最大の強みだと思います。
たとえば、晩秋どりのブロッコリーを選ぶとき、ドーム(花蕾)のところが寒さで傷んで紫色になりにくいものにしたいと思いました。カタログで「花蕾にアントシアニンの発生が少ない」と書かれた品種をチェックすると、グランドーム(サカタ)は耐寒性が強くてよさそう。そこで鈴木さんに聞いてみると、実際彼もつくっていて年末に欠かせない品種とのことだったので、私も導入を決めました。
この吊り下げが面倒なのか、あまりやる人がいないので、長期貯蔵タマネギは飛ぶように売れる。品種はネオアース、パワーなど カタログのどこを見る?
▼耐寒性
ブロッコリーなどの場合は、さきほどのように耐寒性を気にします。
▼貯蔵性
タマネギなどでは貯蔵性が大事です。2月末までつり下げ貯蔵したネオアース、パワー(いずれもタキイ)ならキロ単価が高くても飛ぶように売れます。現在さらに貯蔵性の高いものはないか探しているところです。
▼耐病性は気にしない
逆に気にしないのは耐病性。自分の感覚として、病気に強い品種はおいしくない気がするからです。
▼作型図はよその地域を見る
カタログの作型を見るときは、わが寒冷地ではなく、中間地や暖地の作型を参考にするようにしています。どの種苗会社のカタログでも、作型設定を見ると福島県は東北地方に入っていますが、実際は北関東に当たります。しかもこの辺では中間地や暖地の作型をやる人がいないので、出荷をずらすことができます。
ホウレンソウを2粒まきして間引きをなくしている。品種は寒さに強いアスパイヤー(サカタ) タネ代を安くするには?
なお、タネ代をムダにしないために、余ってもムダにならない寿命の長いタネは小袋では買わないようにしています。ホウレンソウのタネなどは、まき切れなくて余っても、乾燥剤を入れてから密封して冷蔵庫に入れておけば次の年まで簡単に保存できます。初めてつくるものは小袋で買っています。
また、間引きをしなくてもすむようにタネまきを工夫しています。この頃はニンジンベーターリッチ(サカタ)をひと粒まきしたり、ホウレンソウを2粒まきで間引きせず、そのまま収穫まで育てたりしています。それほどのタネ代節約にもなりませんが、意外な盲点だと思います。中玉やミニトマトはわき芽挿しで苗を殖やしています。タネ代を半分以下に抑えることができます。
*
果樹地帯だからこそできる野菜の直売は、これからますますおもしろくなると思います。そして、だれか同じようなことをやり始める頃には、さらに別な戦略をとれるように日々準備をする楽しみも出てきました。
(夢ファームさいとう農園=福島県福島市飯坂町)
この記事の掲載号『現代農業 2010年2月号』直売所名人はどうやってタネを買っているか/もっと活かせるカタログ情報/直売所農家のタネ選び/私のおすすめ品種・売り方/身体が喜ぶ健康品種/品種で病害虫に対抗 ほか。 [本を詳しく見る]
増刊現代農業『ザ・農産物直売所』 JAの直売所/その他の直売所など/無店舗・移動販売など/高校の人気直売所/高校の人気商品 ほか。 [本を詳しく見る]
『青木流 野菜のシンプル栽培』青木恒男 元肥も耕耘も堆肥も農薬もハウスの暖房も出荷規格も不要。所得10倍のブロッコリー・カリフラワー、7倍のキャベツ・ハクサイ、2倍のスイートコーンなど、小さな経営で手取りを増やす着眼点、発想転換で稼ぐ野菜作。 [本を詳しく見る]
『野菜品種の選び方』鈴木光一 タネ屋も営む直売農家が教える品種選びの極意! 自分の舌で選んだおいしい「基本品種」と、珍しい「人目を引く品種」。これら両方をバランスよく揃えて作れば、食べた誰もが喜ぶこと間違いなし!特選品種をガイド。 [本を詳しく見る]