高齢者栽培研究会のメンバー。左から山本邦夫さん。菅野倖吉さん、黒岡隆さん。マルバ台15年生ふじ(赤松富仁撮影) 『脚立なし 早成り 多収
夢のような仕立て集まれ 第2弾』コーナーよりリンゴの超低樹高仕立て
脚立なしで5tとれる 傷だらけのリンゴ福島県福島市・高齢者栽培研究会
死ぬまでリンゴをつくるのが夢。
もう一度プルーン産地をつくるのが夢。
外国の変わった仕立てをやってみるのが夢。
…みんなの夢をかなえてくれそうな仕立て、集まれ!
2009年1月号「夢のような仕立て集まれ」特集の第2弾。
村のスーパースター
背丈ほどの低い樹からリンゴをたわわに実らせることに成功した菅野倖吉さん(72歳)は、村のちょっとしたスーパースターだ。
バラバラになってきた村を1つにまとめようと、しめ縄保存会(18人)を立ち上げたのも菅野さん。イネ、メロン、リンゴ、シメジ…、何をつくらせても上手な菅野さんは、村の農業生産組織・鎌田生産会(20人)もつくった。そして7年ほど前、いくつになってもリンゴをつくり続けられるようにと、有志7人で高齢者栽培研究会を立ち上げたのも菅野さんなのだ。
村のために立ち回るスーパースターは、スポーツマンでもある。若い頃は野球選手だったこともあれば、青森・東京間を走る青東(あおと)駅伝の選手だったこともある。その顔は、かの石原裕次郎にそっくりだったとかで、まさにその頃からスター街道まっしぐら(?)なのだ。
車イスでもリンゴをつくりたい
しかしそうした運動がたたったのか、32歳の頃から膝を痛めてしまう。脚立の上り下りがいよいよつらくなってきた菅野さんは、15年くらい前、リンゴの樹を低くすることにした。
4m以上もあったリンゴの樹(マルバカイドウ台木の普通樹)を、最初は年数をかけて段階的に切り下げたが、枯れる気配はなさそうだったので、自分の身長160cmほどまで一度に切り下げてしまった。
「むかしからリンゴ屋だから、最後までリンゴつくりたいと思ってね。それには脚立を使わないでできるような、最終的には車イスに乗ってもできる樹にすればやれると考えたわけだね」
菅野さんの仕立ての冬の姿。主枝は片側5mほどある。樹形が平面的なので受光率がとてもよさそう。マルバ台12年生のつがる 1日120箱収穫できる 22玉平均で4〜5t
その樹は、写真のとおり、異様なまでに低い。3〜4本あるうちのいちばん上の主枝の高さが1.6mほど。
あんまり低いので、枝が下垂してからの下草刈りは刈り払い機でやるのが大変だが、脚立をほとんど使わないですむのは何にも代えがたくラクだ。収穫はふつう3〜4人で1日60箱のところ、2倍の120箱とれるし、人工交配も3〜4人なら2時間で終わってしまう。足が地面についているから何でも早くできるのだ。
だが、もっとすごいのは、樹高1.6mしかない樹から毎年すごい量をとることだ。10a18〜20本植えで4〜5tとれる。冒頭の写真のとおり、菅野さんのふじは見事な玉張りと玉数。1果600gほど、22玉クラスの大きさのリンゴがまるでブドウのように成っている。あんまり大きくてくっついているので玉回しはせず、葉摘みのみだそうだが、着色もまんべんなく来ている。台風が来たって、樹が低いから被害を受けることもほぼない。まったく夢のような樹なのだ。
リンゴの超低樹高仕立て 葉色を見ながら環状剥皮
これだけ低い樹で大玉多収できるのは、樹勢のコントロールがうまくできている証拠。これを、菅野さんは環状剥皮で実現している。
環状剥皮とは、栄養生長が強く花芽が少ない樹に対して花芽を増やすためにやる技術。主に幹の皮を、ある幅でぐるりと取り除いて、養分の流れを一時的に止めてしまう。
「リンゴが養分の一時停止を食らってる状態だね。だからオレが来るとリンゴが『オヤジが来たぞー』ってビクビクしているんじゃないかと思うから、ごめんなって言いながらやるんだ」
菅野さんの場合は毎年、樹を見ながら、幹だけでなく、それぞれの枝にもやる。まさに「傷だらけ」(菅野さん)。
毎年必ずやるのは、3月15日頃、幹に対して1回やる。ノコギリで傷を入れたあと、マイナスのドライバーを改良してつくった道具で皮を剥く。一周ぐるりとぜんぶではなく、5cmほど残して削る。より強く養分を止めたいときは木質部まで、そうでないときは樹皮だけにやる。
その後、葉色を見て「濃いな」と思ったら、今度は5月、濃い葉色の枝の基部に対してやる。枝の場合は、あんまり強くやると強い風で折れてしまうこともあるので、用心しながらやる。それでもまだ葉色が濃いときは7月までやることがある。
これまでこのやり方で枯らした樹は40aのうち4本だけ。15年くらい前、葉色を見るという加減がまだわからない頃の話だ。
菅野さんの人さし指のところ(前年に長果枝だった)で前年に摘蕾しているので、近くに大きな蕾(矢印)が5〜6個ついている。これをくり返すことで毎年よい果実が成る 長果枝の摘蕾で隔年結果なし
それにしても、環状剥皮だけでは花芽はついても大玉にはできない。これだけ着果させると翌年は休むはずなのに毎年安定して成るのは、そうとうに手間をかけている証拠だ。
たとえば、その一つが長果枝の摘蕾。ふじはとくに長果枝に成らせると青実果というまずい果実になってしまうので、蕾のうちに手で摘み取る。すると翌年その近くによい花芽が4つも5つもつき、そのまた翌年に見事なリンゴが鈴なりになる。こんな手間暇をかけられるのも、超低樹高だからだ。
「間もなく死ぬかもしれないんだから楽しまないとね。自分一人じゃ落ち込んじゃってダメだけど、仲間がいればお互い励ましあってやれるからね」
菅野さん、いま3〜4本ある主枝を、いずれは2本にするつもりだそうだ。こうすると作業はもっとラクになる。最近、膝の手術を終えた足は新品同様。まだまだやる気だ。
「いやー、スターも疲れるなー」